【電源回路】LLCコンバータはなぜソフトスイッチングするのか?

本記事はLLCコンバータの勉強をしてみよう。という記事の第2回目です。

タイトルの通り、「なんでLLCコンバータはソフトスイッチングするのか?」について考えてみようと思います。

「そりゃ共振コンバータだからさぁ。」
「ターンオフ時にZVS(Zero Voltage Switching)するからだよ。」

と雰囲気で乗り切ろうとする人にはドロップキックです。

本記事では簡単な「非対称ハーフブリッジ型LLCコンバータ」で考えます。

非対称ハーフブリッジ型LLCコンバータ
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寄生容量に電流が流れるからQ1,Q2ターンオフ時にZVSが実現できる

先に本記事の結論は

  • LLCコンバータはQ1,Q2の寄生容量の充放電を利用してZVSを実現している。
  • なので充放電が速いとZVS失敗する。

です。

詳細は以下で解説します。

まずソフトスイッチングの定義をちゃんと理解しよう

ソフトスイッチングには電気学会が定めた定義があります。

スイッチング過程における半導体バルブデバイスの電圧-電流平面上の軌跡が最大電圧点、最

大電流点および原点を結ぶ三角形の領域内で動くスイッチング動作

http://hirachi.cocolog-nifty.com/kh/files/20150925-1.pdfより引用

はい。意味不ですね。図で描くと以下です。

図1:ソフトスイッチング領域

これもちょっと分かりづらいですね。一例を出します。例えば、以下のようなスイッチング波形があったとします。

スイッチがOFFするとスイッチの両端電圧は0Vから徐々に上がっていき、スイッチに流れる電流はある値から徐々に下がっていきます。

この軌道を先ほどの図1にプロットしたらこうなります↓。

この場合はソフトスイッチング成立している。

つまりスイッチング時の電圧、電流の起動が図1の斜め線の左下の領域に入っていたらソフトスイッチングです。

なのでソフトスイッチングはゼロイチではなく。ソフトスイッチングにも度合いがあるってことです。

割と損失多めのソフトスイッチングもあれば、損失めちゃ少ないソフトスイッチングもあるって感じですね。

はい、ソフトスイッチングの定義は以上です。

LLCコンバータでのZVS

Q1ターンオフ時

まずQ1がターンオフする寸前を考えます。前回記事のモード2からモード3へ移行する寸前です。

このときはQ1を通ってLmに励磁電流のみが流れています。

Q1ターンオフ寸前の電流経路

ここでQ1がターンオフします。

インダクタは電流を流し続けようとするので、励磁電流は流れ続けます。でもQ1はOFFしているから電流が流れません。でもインダクタはどこかから電流を吸いたい状態です。

過渡的にVin->Cds1から電流が流れ、電流Cds2に溜まっている電荷を抜く経路で電流が流れます。

Q1ターンオフ直後の電流経路

このときのQ1の両端電圧と電流は以下のようになります。

Q1ターンオフ時のタイミングチャート

Q1ゲート電圧をターンオフした後で、Cds1,Cds2から電流が充放電されることでQ1両端電圧がじわ~っと上昇します。

Q1ゲート電圧がターンオフしたときはQ1両端電圧は0Vです。

つまりこのときZVSのソフトスイッチングが成立します。

Q2ターンオン時

Q1がターンオフしてCds1,Cds2が充放電されたら、Q1両端電圧は広がりきっています。つまり、Q2両端電圧は潰れている状態です。

励磁電流は流れ続けようとして、さらに電圧を落とします。するとQ2に並列で付いているダイオードがONしてQ2両端電圧がほぼ0Vで固定されます。

このタイミングでQ2をターンオンします。

Q2ターンオン時のタイミングチャート
Q2ターンオン直前の電流経路

Q2ターンオン時は割と単純ですね。

次です。

Q2ターンオフ時

しばらくQ2オン状態が続いた後にターンオフします。このときQ1ターンオフと同様にZVSします。

同様にQ2がターンオフする寸前を考えます。前回記事のモード4からモード1へ移行する寸前です

このときはQ2を通ってLmに励磁電流のみが流れています。

Q2ターンオフ直前の電流経路

ここでQ2がターンオフします。

Q1のときと同じようにインダクタは電流を流し続けようとするので、励磁電流は流れ続けます。でもQ2はOFFしているから電流が流れません。でもインダクタはどこかから電流を吸いたい状態です。

そうなると過渡的にCds1,Cds2に充放電電流が流れます。

Q2ターンオフ直後の電流経路
Q2ターンオフ時のタイミングチャート

Q2ゲート電圧をターンオフした後で、Cds1,Cds2から電流が充放電されることでQ2両端電圧がじわ~っと上昇します。

Q2ゲート電圧がターンオフしたときはQ1両端電圧は0Vです。

つまりこのときZVSのソフトスイッチングが成立します。

Q1ターンオフ時と原理は同じですね。

Q1ターンオン時

このときはQ2ターンオン時と同様です。

励磁電流は流れ続けようとするため、D1がONします。その後にQ1をONするのでZVSが成立します。

ここは略とさせていただきます。

励磁電流が大きいor寄生容量が小さいとZVS失敗する

これまでの説明の通り、Q1,2がターンオフするときに寄生容量が充放電されるので電圧上昇が遅れることを利用してZVSを成立させています。

逆に言うと、寄生容量Cds1,2への充放電のスピードが速かったら電圧上昇が急峻になります。

充放電のスピードが速まる=電圧上昇が速まる=ZVS失敗

そうすると上図のような電圧波形となり、ZVS失敗しハードスイッチングとなってしまいます。

それを防ぐためには

  • 励磁インダクタンスを大きくする。
  • スイッチング周波数を速くする。

などありますが、使用する条件やパワー素子の特性などによって制限されてしまうため、いい感じのところを選択する。となります。

はい、本記事は以上です。

誰かの参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました!