LLCコンバータの設計に挑戦_定数決定編

本記事はLLCコンバータのド素人が勉強しながらLLCコンバータを作成してみる記事です。

LLCコンバータの仕様を決定しトランスの巻き線比、励磁インダクタンス、漏れインダクタンス、共振コンデンサ容量値を決定するまでがゴールになります。

LLCコンバータに興味がある。難しくてよくわからないんだよねぇという方、素人が勉強していく過程をご覧ください。そしてこういう風に設計していくのか。ふーん。と何かの参考にして頂ければ幸いと思います。

もしくは俺にも出来そうだなと思って頂ければ嬉しいです。

また本記事はLLCコンバータの設計手法や動作原理を解説する記事ではありません。ってか動作原理をちゃんと説明しきれません。それらが知りたい方は今回私が参考にした資料を「参考文献」にまとめましたので、そちらまでジャンプして頂ければと思います。

ではやってみましょう。

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参考文献

いきなり参考文献かよって感じですが、本記事は主に以下を参考にして下記仕様を満たすLLCコンバータを設計してみようとしています。

動作の詳細を理解したい方は以下をご参照ください。

・[書籍]スイッチング電源の原理と設計

500 Internal Server Error

・平地研究室技術メモ No.20171211

http://hirachi.cocolog-nifty.com/kh/files/20171211-5.pdf

・Electrical Information LLCコンバータの設計方法【詳細説明】

LLCコンバータの設計方法【詳細説明】
この記事ではLLCコンバータの設計方法を詳しく説明します。トランスのコアサイズ・漏れインダクタンス・共振キャパシタンス・スイッチング周波数などの値を式によって導出する方法を説明しています。

・[YOUTUBE]茨城大学パワーエレクトロニクスIbaraki Power Electronics 【パワエレ】LLCコンバータの簡易設計 Design Example of LLC Converter

仕様決め

どうせなら使えるものを作りたいので、家庭のコンセントに指して使える安定化電源のようなものが良いですね。

仕様

入力電圧Vin = 90V ~ 180V

出力電圧Vout = 12V

最大出力電流Iout = 1~10A

共振周波数fr=100kHz

こんな感じでやってみましょう。

覚えておくべき式

覚えておくべき式は以下の通りです。

入出力電圧関係式

$$Vout=\frac{1}{2}Vin\frac{1}{\sqrt{(1+K(1-\frac{1}{F^2}))^2+\frac{1}{Q^2}(F-\frac{1}{F})^2}}\frac{n2}{n1}$$

$$K=\frac{L_s}{L_p’}=\frac{L_r+\frac{L_pL_r}{L_p+L_r}}{L_p-\frac{L_pL_r}{L_p+L_r}}、F=\frac{f}{fr}、fr=\frac{1}{2\pi\sqrt{L_sC_r}}、Q=R_L’\sqrt{\frac{C_r}{L_s}}、R_L’=\frac{8}{\pi^2}(\frac{n1}{n2})^2R_L$$

Cr:電流共振コンデンサ

Lp:励磁インダクタンス

Lr:漏れインダクタンス

Ls:合成インダクタンス

Lp’:なんかようわからん合成インダクタンス

fr:共振周波数

f:動作周波数

RL:負荷抵抗値

RL’:1次側に換算した負荷抵抗値

トランスの巻き線比Nの決定

トランスの巻き線比を決定するときの考え方は

最大周波数f=frのときでも出力電圧が得られるようにNを設定します。

入出力電圧関係式にf=frを代入すると

$$Vout=\frac{1}{2}Vin\frac{1}{\sqrt{(1+K(1-\frac{1}{1}))^2+\frac{1}{Q^2}(1-\frac{1}{1})^2}}\frac{n2}{n1}$$

QとKの項が消えて綺麗になります。

$$Vout=\frac{1}{2}Vin\frac{n2}{n1}$$

と簡単に整理できます。n1/n2=Nとして、N=の形に変形すると

$$\frac{2NVout}{Vin}=1$$

$$N=\frac{Vin}{2Vout}$$

となります。Vinは最大値で計算します。

$$N=\frac{180}{2*12}=7.5$$

ということでトランスの巻き線比は7.5に設定することにします。

なぜ入力電圧最大値で計算するのか?

入力電圧最大値で計算しておかないと、入力電圧最大時に狙いの出力電圧を得られないからです。

仮に入力電圧typcal値で巻き線比Nを計算してはダメなのか?を考えてみましょう。

入出力電圧の関係式をVout VS スイッチング周波数fswで描くと以下のようなグラフになります。

入力電圧3パターン(max、typcal、min)で描いてみました。

最大スイッチング周波数では入力電圧typにて出力電圧狙い値になっており、min/maxは入出力電圧関係式で計算される通り低めと高めが出ております。

入力電圧低い場合はスイッチング周波数を下げれば出力電圧狙い値を出せます。(上記グラフでいうと60kHzくらいにすれば得られます。)

入力電圧高い場合はスイッチング周波数を上げなければ出力電圧狙い値を得られません。

しかし最大スイッチング周波数=共振周波数なので、入力電圧が高い時は出力電圧狙い値を得ることは出来ません。

なので、あらかじめ最大スイッチング周波数のとき入力電圧最大値を出せるように見積もっておきます。

ただ色々調べると、共振周波数以上でも使う前提でtypcal値で計算している方法もありました。あくまで目安程度に考えて設定したら良いと思います。

入出力電圧比Gainの範囲を計算する

出力電圧の式をちょこっとだけ変形して入出力電圧比の式に直します。

$$Vout=\frac{1}{2N}Vin\frac{1}{\sqrt{(1+K(1-\frac{1}{F^2}))^2+\frac{1}{Q^2}(F-\frac{1}{F})^2}}$$

Vinと2Nを左辺に移行して

$$\frac{2NVout}{Vin}=\frac{1}{\sqrt{(1+K(1-\frac{1}{F^2}))^2+\frac{1}{Q^2}(F-\frac{1}{F})^2}}$$

$$Gain=\frac{2NVout}{Vin}と置いて$$

$$Gain=\frac{2NVout}{Vin}=\frac{1}{\sqrt{(1+K(1-\frac{1}{F^2}))^2+\frac{1}{Q^2}(F-\frac{1}{F})^2}}$$

Gainの範囲は入力電圧Vinに依存します。前項ではVin=180VでGain=1となるように巻き線比Nを設定しました。Gainが最大値を取るのはVinが最小の時になります。

$$Gain_{min}=\frac{2NVout}{Vin_{min}}=\frac{2*7.5*12}{90}=\frac{180}{90}=2$$

Gainの最大値は2とわかりました。20%のマージンを加味して、Gain_max=2.4として進めます。

Q値の下限値を確認する

先ほどのGainの式において

$$Gain=\frac{1}{\sqrt{(1+K(1-\frac{1}{F^2}))^2+\frac{1}{Q^2}(F-\frac{1}{F})^2}}$$

Q値は小さくなればなるほど、Gainのピークが落ちていきます。LrとLpの比を適当な値に固定して、Q値をいくつか振って、Gainの周波数依存性を示したグラフが以下の通りです。

※横軸が動作周波数f[kHz]、縦軸がGainです。

使用する周波数範囲と入力電圧範囲において、Gainの最大値(今回はGain_max=2.4)を出せるようにすることが要件の一つになるので、Gain_max≧2.4を満たすようなQ値に設定する必要があります。

Q値を小さくすると出せるGainが落ちていくので、Q値の下限値を計算する感じですね。

使用する周波数範囲はLr,Lp,Crの共振周波数f1からLs,Crの共振周波数frまでです。上記グラフのGainのピークはLr,Lp,Crの共振周波数となります。なのでGainのピーク(f=f1)でGain_max以上となっていれば、要件を満たすことが出来ます。

ということでGainのピーク(=G_p)においてQ値の下限値を計算していきます。

Q値の下限値を計算するときは以下の式を利用します。

$$Q_{min}=\sqrt{\frac{(F-\frac{1}{F})^2}{\frac{1}{G_p^2}-(1+K(1-\frac{1}{F^2}))^2}}$$

この式はGainの式をQ=の形に直しただけのものです。

励磁インダクタンスLpと漏れインダクタンスLrの比をSとして

$$S=\frac{L_p}{L_r}$$

f=f1のときK値とF値は以下のように表すことができます。(導出過程は後述します。)

$$K=\frac{2S+1}{S^2}、F=\frac{\sqrt{2S+1}}{S+1}$$

上記式にGp=2.4を代入して、S値をいくつか振ってQの下限値を計算します。

私は以下のようにExcelで計算しました。

計算式入力中にミスることが多いので、細かく分けて計算するのがおススメです。

$$A=1+K(1-\frac{1}{F^2})$$

$$B=F-\frac{1}{F}$$

のことです。

はい。これでQの下限値を計算できました。

KとかFをSで表現した式やQminの式の導出方法を知りたい方は以下の書いておきます。

f=f1のときK値とF値の導出

まずはKの方をやってみましょう。

$$S=\frac{L_p}{L_r}$$

なので

$$L_r=\frac{1}{S}*L_p$$

$$\frac{L_pL_r}{L_p+L_r}=\frac{L_p*\frac{1}{S}L_p}{L_p+\frac{1}{S}L_p}$$

$$\frac{L_pL_r}{L_p+L_r}=\frac{\frac{1}{S}L_p}{1+\frac{1}{S}}$$

$$\frac{L_pL_r}{L_p+L_r}=\frac{1}{S+1}L_p$$

これをKの式に代入してひたすら整理します。

$$K=\frac{L_r+\frac{L_pL_r}{L_p+L_r}}{L_p-\frac{L_pL_r}{L_p+L_r}}$$

$$K=\frac{\frac{1}{S}*L_p+\frac{1}{S+1}L_p}{L_p-\frac{1}{S+1}L_p}$$

$$K=\frac{\frac{1}{S}+\frac{1}{S+1}}{1-\frac{1}{S+1}}$$

$$K=\frac{\frac{S+1}{S}+1}{S+1-1}$$

$$K=\frac{\frac{S+1}{S}+1}{S}$$

$$K=\frac{S+1+S}{S^2}$$

$$K=\frac{2S+1}{S^2}$$

はい。続いてFにいきましょう。

Gainのイメージ図は以下の通り、共振周波数f1がピークになります。

f1はLr,Lp,Crの共振周波数です。計算式は以下の通りです。

$$f_1=\frac{1}{2\pi{}\sqrt{(L_r+L_p)*C_r}}$$

frはLs,Crの共振周波数です。計算式は以下の通りです。

$$f_r=\frac{1}{2\pi{}\sqrt{L_s*C_r}}$$

これをFの式に代入して整理します。

$$F=\frac{\frac{1}{2\pi{}\sqrt{(L_r+L_p)*C_r}}}{\frac{1}{2\pi{}\sqrt{L_s*C_r}}}$$

まぁ2πとCrを消しますよね。

$$F=\frac{\frac{1}{\sqrt{(L_r+L_p)}}}{\frac{1}{\sqrt{L_s}}}$$

一番下を一番上に持っていきます。

$$F=\frac{\sqrt{L_s}}{\sqrt{(L_r+L_p)}}$$

分子分母を整理出来るように準備します。まずLsは

$$L_s=L_r+\frac{L_pL_r}{L_p+L_r}$$

なのでSで表現するようにLrに代入していきます。

$$L_s=\frac{1}{S}L_p+\frac{1}{S+1}L_p=(\frac{1}{S}+\frac{1}{S+1})L_p$$

またLr+LpもSを使ってLrを消します。

$$L_r+L_p=\frac{1}{S}L_p+L_p=(1+\frac{1}{S})L_p$$

これらの式を途中まで計算したFの式に代入してひたすら整理します。

$$F=\frac{\sqrt{(\frac{1}{S}+\frac{1}{S+1})L_p}}{\sqrt{(1+\frac{1}{S})L_p}}$$

$$F=\frac{\sqrt{\frac{1}{S}+\frac{1}{S+1}}}{\sqrt{1+\frac{1}{S}}}$$

$$F=\frac{\sqrt{1+\frac{S}{S+1}}}{\sqrt{S+1}}$$

$$F=\frac{\sqrt{S+1+S}}{S+1}$$

$$F=\frac{\sqrt{2S+1}}{S+1}$$

はいこれでSを決めたらFとKが出ます。

等価出力抵抗RL’を計算する

RL’は以下の計算式で求めることが出来ます。

$$RL’=\frac{8}{\pi^2}(\frac{n1}{n2})^2RL$$

巻き線比N=n1/n2=7.5なので、それを代入します。

また、Vout=12V、Iout=1~10Aを出そうとしているので負荷抵抗はオームの法則から

$$RL=12/1~12/10 = 1.2Ω~12Ω$$

となります。以上を代入して計算します。

$$RL’=\frac{8}{\pi^2}*7.5^2*1.2=54.71Ω$$

$$RL’=\frac{8}{\pi^2}*7.5^2*12=547.13Ω$$

これもふーんって感じですね。

電流共振コンデンサCrを計算する

最大共振周波数fr=100kHzで合成インダクタンスをLsとすると、

$$L_s=L_r+\frac{L_pL_r}{L_p+Pr}$$

で計算できます。

$$fr=\frac{1}{2\pi{}\sqrt{L_sC_r}}$$

なので、

$$2\pi{}f_r=\frac{1}{\sqrt{L_sC_r}}$$

$$(2\pi{}f_r)^2=\frac{1}{L_sC_r}$$

$$C_r=\frac{1}{(2\pi{}f_r)^2*L_s}$$

これでCrを求められます。また2つ前の導出過程で出てきた

$$L_s=(\frac{1}{S}+\frac{1}{S+1})L_p$$

これをC_rの式に代入します。

$$C_r=\frac{1}{(2\pi{}f_r)^2*(\frac{1}{S}+\frac{1}{S+1})L_p}$$

励磁インダクタンスLpを決めて、励磁インダクタンスと漏れインダクタンスの比を決めるとこの式から共振コンデンサCrの値を計算できます。

式だけでは関係性がよくわからないので図示↓。

縦軸はCrの容量値[uF]です。ふーんって感じですね。

励磁インダクタンスLpと共振コンデンサCrを決める

まず少し前に計算したQの下限値を満たすようにLpを決定します。Q値は以下の式で計算できます。

$$Q=R_L’\sqrt{\frac{C_r}{L_s}}$$

$$L_s=(\frac{1}{S}+\frac{1}{S+1})L_p$$

RL’は最小値で計算します。今回は54.71Ωです。なぜRL’最小値で計算するのか?それはQ値は下限値以上を満たすように設計するから。そしてRL’が小さくなればQ値が小さくなるからです。

励磁インダクタンスLpとQ値の関係をグラフにすると以下のようになります。

Qの下限値は過去に計算した通りです。(Q下限値を小数点2位を切り上げしています。)

Lr/Lp0.160.200.240.280.32
Q下限値3.63.12.72.42.2

先ほどのグラフに各Q値をプロットしてみます。

この点より左だとQ値が下限値より大きくなるので、Lpはこの点より左から選択すればQ値の下限値満たすことが出来ます。

何の根拠もありませんが、Lr/Lp=0.2(S=5)にしましょうかね。とりあえず。

Lpは上記グラフから読み取って75以上とします。

Crはこれも前項に示したグラフから読み取ります。

Lp=75μHで赤線との交点のCrは0.09以上ですかね。(適当)

まとめます。

Lr/Lp0.2
Q3.1以上
Lp[μF]75以下
Cr[μF]0.09以上

CrはE24系列で0.091μFにしましょうかね。Lpはそのまま75μHとします。

はい。これで励磁インダクタンスLpと共振コンデンサCrの定数を決定しました。

漏れインダクタンス値を決めて、各パラメータを計算

$$L_r/L_p=0.2$$

でLp=75μHと決めたので自然と

$$L_r=L_p*0.2=75*0.2=15[μH]$$

と計算できます。

改めてQ値を計算して下限値3.1以上になっているかを確認してみます。

$$Q=R_L’*\sqrt{\frac{C_r}{L_s}}$$

$$L_s=L_r+\frac{L_pL_r}{L_p+L_r}=15+\frac{75*15}{75+15}=27.5[μF]$$

$$Q=54.71*\sqrt{\frac{0.091}{25.7}}=3.255$$

3.1以上になっているので、良しとしましょう。

定数のまとめ

ここまでで色々定数が決定したのでひとまずまとめておきます。

定数のまとめ
  • トランスの巻き線比 N=7.5
  • 励磁インダクタンス Lp=75μH
  • 漏れインダクタンス Lr = 15μH
  • 共振コンデンサ Cr = 0.091μF

上記定数で改めて出力電圧Voutを計算して、プロットしました。

ちゃんと入力電圧範囲内(~100kHz)で動作周波数を調整することによって出力電圧Voutを出力できるので一旦問題なしとします。(ちゃんと作成出来るかはわかりませんが笑)

以上で定数設定終了です。

最後に

今回は仕様からLLCコンバータの各定数を設定しました。

これらの定数が実際に作成できるのか?

他に考慮すべき要素がないのか?

など心配事はありますが、次回はこの定数で実際に作成に挑戦してみたいと思います。(いつになるかわかりませんが。。。)