【電源回路】フルブリッジ型LLCコンバータはなぜソフトスイッチングするのか?

本記事はフルブリッジ型LLCコンバータの勉強をしてみよう。という記事の第2回目です。

LLCコンバータ関連記事

1回目:【電源回路】フルブリッジ型LLCコンバータの動作原理
2回目:【電源回路】フルブリッジ型LLCコンバータはなぜソフトスイッチングするのか?(本記事)
3回目:【電源回路】フルブリッジ型LLCコンバータの励磁インダクタンス最大値はなぜLm≦TTdead/16Cossなのか?

タイトルの通り、「なんでフルブリッジ型LLCコンバータはソフトスイッチングするのか?」について考えてみようと思います。

まぁ過去に説明した非対称ハーフブリッジ型と全く同じ理屈です(そのときの記事はこちら)。

本記事では以下のような「フルブリッジ型LLCコンバータ」で考えます。

フルブリッジ型LLCコンバータ
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4つの寄生容量を利用して、じわじわとトランスにかかる電圧を変化させるからZVSが実現できる

先に本記事の結論は

  • フルブリッジ型LLCコンバータはQ1~4の寄生容量の充放電を利用してZVSを実現している。
  • 充放電が速いとターンオフ時にZVS失敗する。
  • 充放電が遅いとターンオン時にZVS失敗する。

です。

詳細は以下で解説します。

まずソフトスイッチングの定義をちゃんと理解しよう

過去記事で何度も触れていますが、ソフトスイッチングには電気学会が定めた定義があります。

スイッチング過程における半導体バルブデバイスの電圧-電流平面上の軌跡が最大電圧点、最

大電流点および原点を結ぶ三角形の領域内で動くスイッチング動作

http://hirachi.cocolog-nifty.com/kh/files/20150925-1.pdfより引用

とは言っても、意味不だと思います。図で描くと以下です。

ソフトスイッチング領域

これもちょっと分かりづらいですね。一例を出します。例えば、以下のようなスイッチング波形があったとします。

電流:スイッチを流れる電流
電圧:スイッチの両端電圧

スイッチがOFFするとスイッチの両端電圧は0Vから徐々に上がっていき、スイッチに流れる電流はある値から徐々に下がっていきます。

この軌道を先ほどのソフトスイッチング領域にプロットしたらこうなります↓。

この場合は肌色領域に入っているので、ソフトスイッチング成立している。

つまりスイッチング時の電圧、電流の起動が図1の斜め線の左下の領域に入っていたらソフトスイッチングです。

なのでソフトスイッチングはゼロイチではなく。ソフトスイッチングにも度合いがあるってことです。

割と損失多めのソフトスイッチングもあれば、損失めちゃ少ないソフトスイッチングもあるって感じですね。

はい、ソフトスイッチングの定義は以上です。

フルブリッジ型LLCコンバータでのZVS

Q1,Q4のターンオフ時

まずQ1とQ4がターンオフする寸前を考えます。前回記事のモード2からモード3へ移行する寸前です。

フルブリッジ型LLCコンバータの動作波形

このときはQ1を通ってLmに励磁電流のみが流れています。

Q1,Q4ターンオフ寸前の電流経路

ここでQ1とQ4がターンオフします。

インダクタは電流を流し続けようとするので、励磁電流は流れ続けます。でもQ1とQ4はOFFしているから電流が流れません。でもインダクタはどこかから電流を吸いたい状態です。

そうすると、Cds1,2,3,4を充放電する経路で電流が流れます。

Q1,Q4ターンオフ直後の電流経路

このときのQ1の両端電圧と電流は以下のようになります。

Q1ターンオフ時のタイミングチャート

Q1ゲート電圧をターンオフした後で、Cds1,Cds2から電流が充放電されることでQ1両端電圧がじわ~っと上昇します。

Q1電流がながれなくなる速度と両端電圧上昇のスピードが違って、重なる領域が小さくなっています。

つまりこのときZVSのソフトスイッチングが成立します。

同様のことがQ4の両端電圧と電流に起きています。

Q2,Q3のターンオン時

Q1,4がターンオフしてCds1~4の充放電が完了したら、Q1,4両端電圧は広がりきっています。つまり、Q2,3両端電圧は潰れている状態です。

励磁電流は流れ続けようとして、さらに電圧を落とします。するとQ2,3に並列で付いているダイオードがONしてQ2,3両端電圧がほぼ0Vで固定されます。

充放電が完了してD2,D3がONして励磁電流が流れている。

このタイミングでQ2,3をターンオンします。これによりターンオン時にZVSを達成しています。

D2 ON時のタイミングチャート

次にQ2,3がターンオフ、その次にQ1,4がターンオンとなりますが、ZVSの原理は全く同じなので割愛します。

励磁インダクタンスが小さすぎるとZVS失敗する

励磁インダクタンスが小さすぎるとZVS失敗します。

まず励磁インダクタンスが小さくなると、励磁電流が大きくなります。つまり充放電の電流が大きくなります。すると充放電の時間が短くなります。

つまり以下図の赤線のように電圧の上昇が速くなります。

ターンオフ時のZVS失敗のイメージ

これが速くなりすぎると、ZVS失敗します。

励磁インダクタンスが大きすぎてもZVS失敗する

逆に励磁インダクタンスが大きすぎてもZVS失敗します。

さっきとは逆で励磁インダクタンスが大きいと励磁電流が小さくなります。つまり充放電電流が小さくなります。すると充放電時間が長くなります。

以下図の赤線のように本来なら電圧が上昇しきって、ダイオードがONして欲しいところなのに、なかなか上がってこない。だけど次のターンオンの時間が来てしまい、電荷が一気に放出されてZVS失敗します。

充放電時間が長い場合のZVS失敗タイミングチャート

励磁インダクタンスは大きすぎても小さすぎてもダメということですね。

いや~難しいですね。

まぁ今回は以上で終わりにしようと思います。

誰かの参考になれば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました!!